樹木年輪は大変優れた古気候プロキシーですが、樹木密度の高い森林では、一般に、隣接個体との光を巡る競争により個体成長が制限されてしまうため、年輪幅に基づく古気候復元が難しいと言われてきました。一方、樹木年輪セルロースの酸素同位体比(δ18O)は、非生物学的要素のみによって規定されるため、日本のような高温多雨域でも、過去の気候を正確に記録できると言う特長があります[1]。現在世界中でその測定が始められており、年輪研究の先進圏であるヨーロッパでは、過去数百年に及ぶ広域かつ高時間分解能の年輪δ18Oのデータベースが構築されて来ています[2]。日本でもこれに対応して広域のデータベース作りに着手し、気象データとの相関解析から、樹木年輪δ18Oはヨーロッパと同様に夏季の水環境(特に相対湿度)と高い相関を示すことなどが分かってきました(下図)。
今後、測定個体数、データ取得点を増やして、年輪δ18Oの時空間的変動特性を気候学的に解析すると共に、歴史気候学を初めとする多くの分野の方々のこれまでの知見と照合して、年輪δ18Oデータの正確な解釈とその有効利用を進めたいと考えています。データベース作りは、樹木年輪試料を提供下さる、多くの森林・木材科学、年輪年代学の研究者の皆さんとの共同作業です。多くの方々(奈良文化財研究所・光谷さん、森林総合研究所・藤原さん、信州大学・安江さん、北海道大学・高木さん、島根大学・三瓶さん ら)のこれまでのご協力に感謝しますと共に、これからも関係する皆さんのご参加・ご協力をお待ちしています。
[1] Nakatsuka, T., et al: Geochemical Journal, 38, 77-88 (2004).