古気候学とは

 

過去の気候を研究する学問分野である.古気候を復元し,その原因を明らかにすることを目的としている.1990年代から2000年代にかけて,現在進行している温暖化が人為起源か自然変動であるのか論争が起きたが,過去1000年間の古気候の復元から,20世紀の温暖化が過去1000年間にみられない急激かつ大きな変化であることが明らかになった.2000年代以降は,地球環境の未来を予測するために,過去の温暖期の気候復元とその原因の解明,気候感度の推定,気候変動が人類社会に与える影響の評価に関わる研究が活発化している.

 

古気候の復元は,気候アーカイブからプロキシを用いて気候情報を抽出することにより行われる.気候アーカイブには,海底コア,湖底コア,サンゴ,石筍,樹木年輪,古文書などがある.プロキシは気候アーカイブによりさまざまであるが,たとえば古水温の復元であれば,アルケノンUK37GDGTTEX86,有孔虫のMg/Ca比などがある.復元された気候変動はプロキシ記録と呼ばれる.全球観測記録は過去60年間しかカバーしないため,数十年以上のスケールの気候変動を理解するには,プロキシ記録が不可欠である.

 

得られたプロキシ記録から導かれる気候変動の原因を考察することも古気候学の重要な仕事である.統計的な手法を駆使して,一見複雑にみえる変動から規則性を見いだし,モデルで検証する.大型計算機の発達により,実験室では再現不可能な気候変化や環境変化が計算機上で再現可能になり,古気候学の発展が加速している.

 

現在起きている環境変化が人類にどのような影響を及ぼすのかを予測するうえで,過去に起きた気候変化と社会との関係を事例的に理解することは極めて重要である.気温,降水量,それらの変動の大きさ・時間スケールと歴史事件および社会制度との間にある関係性を社会背景を考慮したうえで理解することにより,将来予測に役立つ規則性を見いだすことが期待される.

 

地球環境の将来を予測するには,100年スケールで起きる現象を的確に理解することが必要である.古気候学では過去の数十年以上のスケールの気候変動に関する情報を提供できる.これが地球環境研究における古気候学の強みである.