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研究概要
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概要


 太陽の光が届く海洋表層(水深0–200メートル)に生息する植物プランクトンや海氷中の微細藻類(アイスアルジー)は,光合成により,水と海水中に溶けた二酸化炭素から有機物と酸素を作り出します.海洋植物プランクトンによる地球規模での正味の年間の光合成炭素固定(純基礎生産)は,陸上に生息する植物が行うものとほぼ同等であると考えられており(炭素量として,年間当たり45–60×10の15乗グラム),食物網を通して,海洋生態系全体を支える基盤となっています.この海洋表層で作られた有機物の一部は,従属栄養性の微生物(真性細菌,古細菌)や動物プランクトンなどにより消費・分解されながら,水深200メートル以上の海洋の中深層へ輸送されます.一度、海洋深層にまで炭素が輸送されると,深層海流の循環により数百年から1,500年ほどは海洋表層へ浮上してこないため,長期間,炭素が海洋深層に隔離されることになります.この海洋生物による炭素隔離機構は「生物ポンプ」と呼ばれています.現在,海洋は大気中に存在する量の約50倍もの炭素を蓄えており,産業活動等によって排出された人為起源二酸化炭素の約30%を海洋が吸収しています.仮に,海洋の生物ポンプが停止すると,大気中の二酸化炭素濃度は現在の2倍ほど増加すると考えられています.
 近年,温暖化等の地球環境変化により,植物プランクトンやアイスアルジーの代謝活性が変わり,それらの現存量や群集組成(即ち,生物多様性)が変化することが危惧されています.例えば,北極海やオホーツク海では,年々,海氷面積が減少しており,海氷中に生息するアイスアルジーの生存が危ぶまれています.これら光合成生物の生理生態が変わると,それらを捕食するより高次栄養段階の海洋生物(動物プランクトン、延いては魚類など)に深刻な影響を及ぼす可能性があります.また,上記の生物ポンプの効率も変化すると考えられています.
 このため,本研究室では,主に北太平洋とその縁辺海(オホーツク海、ベーリング海など)に生息する植物プランクトン,アイスアルジーの生理生態に注目し,フィールド調査や室内培養実験などを通して,水温、栄養物質、二酸化炭素等の環境因子とこれら生物の現存量,群集組成,光合成能力などとの関係を定量的に解析し,海洋の物質循環(例えば,炭素,窒素が関係する生物地球化学過程)や温暖化等の地球環境変化とのかかわりについて調べています.また,本研究室では,先端技術を積極的に導入し,国内外の研究者と活発に共同研究を実施しています.下記は,現在推進中の研究プロジェクトです.

プロジェクト


  • 広域高頻度高精度観測から解明する微細藻類の動態変化(科学技術振興機構・戦略的創造研究推進事業(CREST)・研究領域:海洋とCO2の関係性から拓く海のポテンシャル・R5–R10)

  • 北太平洋中高緯度域の新生産に貢献する珪藻類と窒素固定ラン藻類の動態変化の解明(日本学術振興会・科研費基盤研究(B)・R5–R8)

  • 亜寒帯海域での大気有機態窒素エアロゾル生成量・組成変動を支配する微生物要因の解明(日本学術振興会・科研費基盤研究(B)・R5–R7)

  • GCOM-C/SGLIによる植物プランクトン群集組成および新生産を介した海洋物質動態の時空間変動解析(宇宙航空研究開発機構・第三回地球観測研究公募・R4–R6)

  • 海洋コンベアベルト終焉部における鉄とケイ素を含めた栄養物質プロパティの形成過程(日本学術振興会・科研費基盤研究(S)R3–R7)

  • Science Committee on Oceanic Research (SCOR) Working Group 170: Physiology and Rates in Microbial Oceanography (PRIMO; October 2023 –)

  • Science Committee on Oceanic Research (SCOR) Working Group 165: Mixotrophy in the Oceans – Novel Experimental designs and Tools for a new trophic paradigm (MixONET; October 2021 –)